僕は英語の先生をしているが、
英語の先生にとって最大の脅威は何だろう?
って、たまに考えるときがある。
何だと思う?
僕は、自動翻訳機の実用化だと思う。
けっこう本気だ。
そんな、ドラえもんじゃないんだから、って思うかもしれないが、
無人の自動車が既にかなり実用化に近づいてる時代だ。
来年の1月には、イギリスの一部の都市で実際に無人自動車を走らせてみるらしい。
僕が小学生のときには、
映画を携帯電話で楽しめるなんて夢の夢、というか思いつきもしなかった。
自動翻訳機だって、技術的にはかなり実用に近づいていってる。
iPhoneのSiriなんか、大抵何を聞いてもすらすらと答えてくれる。
気づけば、打つのがだるいときは大抵声で入力して検索している。
計算機やパソコンの登場で、
ソロバンで素早く計算できる人たちは一気にその優位性を失ってしまった。
そんなわけで、
ちょっと前まで、これは英語の先生もあと10年ぐらいしたら一気に仕事がなくなるのでは...
と思っていた。
でも、自分の中で、そこがちょっと晴れた気がする。
考えてみれば、翻訳機すら不要の日本語の世界で、
それでも国語の先生は仕事があり、教えるべきことがある。
おそらく、英語もそこを目指すべきなんじゃないかなと感じている。
たとえば、英語は「長文」が大切だと言われる。
センター試験とかを見ていても、「長文」がとれないと、点数は全然伸びない。
じゃあ、「長文」の授業で何をしているかって、
学校の授業を思い出してほしいんだけど、結局、「和訳」をしてるよね。
例えばこういう一文が出てきて、
She met him and asked him this question.
これを「動詞のmetがV1、askedがV2で、どちらも主語Sはsheだから、
"彼女は彼に会って、この質問を投げかけた"と訳す。いいね。
ちなみにandは等位接続詞だから、過去形の動詞 同士を結んでいるわけやね」という感じ。
こういうのは、「和訳」の授業、「構文」の授業だ。
で、なんでこういう授業をしているかっていうと、「和訳さえすれば解けちゃう」からだ。
もともとの文章が、そういうレベルの文章だということ。
もちろん、僕も「構文」については話す。
On the other hand, Jane explained it to them so no one would be surprised later.
(その一方で、後で誰も驚かないように、ジェーンはそれについて彼らに説明した。)
で、このsoがso that ~(~となるように) の略だよ、このsoを「だから」って訳したら変になるよ、
って、そういう話はもちろんする。
こういう話は嫌いじゃない。というかむしろ大好きだ。本当なら全ての文章にSとかVとかつけて、
さらに細かい文法についても全部話してしまいたくなるぐらいだ。
でも、これは「自動翻訳機」が出てきたら一発で吹っ飛ぶ。
し、テストで全ての文をそうやって読んでいたら、完全に全体像を失う。
「木を見て森を見ず」だ。
一方で、自動翻訳機にも答えられない質問はある。
「なんで、On the other handで文章をつないでるんだろう。どんな意味があるの」とか、
「わざわざ筆者がJaneについてこの場面で触れてる狙いって何だろう」とか、
そういう質問だ。
TOEFLやSATなどの試験を見ていると、こういう質問が実に多く出てくる。
「筆者がこの具体例を示した狙いは何だと考えられるか」とか、
「この主張は、前の文の筆者とどういった違いがあるだろうか」とか。
これって・・・
まさに、国語の問題だよね。
同じ言葉なんだから、当たり前といえば当たり前だ。
Main idea(メインの主張)は何か? どこがfact(事実)でどこがopinion(主観的な意見)か?
この表現は本当に読者を説得させるのに十分なものだろうか?
これが分からないといけない、ような英語の問題を、
特にトップを目指す子たちは、これから解いていくことになるんじゃないかと思っている。
繰り返すけど、もちろん「単語を知ってる」「文法を分かってる」「文が訳せる」、
こういう力が大前提だし、超英塾でも高1ではそんなことばっかりやっている。
みんな、しっかり単語を暗記してくれるし、楽しんで文法を頭に入れてくれているし、
「この一文は丸ごとインプットね」と言えば何度も音読して「自分のモノ」にしてくれる。
本当に感謝だ。
ここでコツコツやっていることは、確実にこれから(受験だけでなく社会に出てからも)役立ってくれるはずだ。
でも、教える側は、思考をそこで止めてはいけないんだと思う。
僕らは英語の「学者」を作っているわけではないし、
「自動翻訳機」だってそのうち登場してくるかもしれない。
そのとき、人間に必要とされる力は、ただ訳すだけでなく、
よく言われるワードだけど、
「論理的思考」、「Critical Thinking」ができる力なんじゃないかな。
だから、この夏、長文をやるときにも、
僕は和訳の話だけじゃなく、
「ここにbecause of thisってあるけど、どういう因果関係なの?」とか、
「この出だしの一文だけで、この後の話の展開が8割方 予想できるんだけど、どうなると思う?」とか、
そういうことを繰り返し聞くようにしている。
たぶんみんな、「しつこいなー同じ質問ばっかり何度も!」と思っているだろうけど...。
ただ和訳ができるだけじゃなくて、
英語を読んでいるときの頭の動かし方をどんどん「パクって」ほしいなと思っている。
そういうわけで、自動翻訳機が登場しても、まあいっかという気になってきた。
無人自動車とか、スマホでサーモグラフィをチェックできるとか、
そういうドラえもんみたいな道具、星新一みたいな話が僕は大好きなので、
自動翻訳機も喜んで迎えよう。